日本放射線腫瘍学研究グループ(JROSG)は、平成18年7月11日に特定非営利活動法人 日本放射線腫瘍学研究機構(NPO-JROSG)の認可を受けて以来、中心的な理念である「広く一般市民を対象として、悪性腫瘍などに対する最適な放射線療法の普及のために、多施設共同研究事業や国内外の研究状況の情報の収集を通じて、科学的根拠に基づいた放射線療法を確立するとともに、得られた成果を広く社会一般に対して周知せしめるための事業を行い、もって社会全体の医療福祉の増進に寄与することで社会貢献すること」を実現すべく、放射線治療に関する臨床試験や調査研究、広報および啓発活動を実践してまいりました。当機構は、放射線治療を行っている全国の大学病院、がんセンター、一般病院など130施設以上が参加し、300名を超える放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士、看護師などの様々な職種の個人会員で構成されています。
放射線腫瘍に関しては、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)が当機構(JROSG)と同様に放射線腫瘍医、診療放射線技師、医学物理士、看護師などの放射線治療に携わる多くの会員で構成され、専門資格の認定や学術大会開催などの大きな役割を担っています。JASTROとJROSGは、それぞれの基盤や規模、設立と経緯やその成り立ちを異にするとは言え、両者が放射線腫瘍学の臨床ならびに研究に大きく寄与してきました。JROSGは、臨床試験や調査研究を行う疾患特異的で各臓器のスペシャリストの集団からなる部位別専門委員会を有し、種々の部位のがんに対する放射線治療を中心とする治療法の開発やその有効性を検証する研究を推進しています。このような臓器横断的な研究を行う委員会を有する研究グループは、国内の他の研究及び臨床試験グループにはない特色でかつJROSGの強みと考えています。
JROSGでは、臨床試験の科学的および倫理的な妥当性、実行可能性を審査する臨床試験審査委員会、臨床試験が安全に実施されていることを評価する効果・安全性評価委員会、生物統計家による臨床試験を始めとする研究の統計学的なコンサルテーション体制も整備され、臨床試験を推進する研究組織として整備が充実してきております。臨床研究不正をきっかけに2018年4月1日から臨床研究法が施行され、臨床試験を始めとする臨床研究に対して、より厳格で適切な運用が義務づけられました。これは研究の結果に対する信頼性を担保する仕組みの一環ですが、個々の研究者や施設単独で臨床研究を実施するのが難しくなったのも事実です。その意味でもJROSGが放射線腫瘍学に関する今後の研究の推進にますます重要な役割を果たすべき契機になったと理解しています。
このような臨床試験などの臨床研究とは別に、一般の方々に向けて悪性腫瘍や放射線治療に関する理解を深めるため、悪性腫瘍や放射線治療に関連する情報を分かりやすく発信する教育・広報活動も積極的に行っております。このホームページはその情報へのアクセスのひとつの窓口ですが、講演会や出版物、また他の情報共有ツールを駆使して、さらに広く情報の発信できるよう充実を図ってまいります。
JROSGの運営は、個人会員からの会員費、協賛企業からの協賛金や寄付、出版事業などのからの収益を主体に運営されています。そのため、財政的にも独立性、中立性が担保されています。今後もJROSGの活動に理解と協賛をしていただく個人会員ならびに企業などを増やし、活動をさらに活性化させていきたいと考えています。
放射線治療は、手術療法や化学療法と並びがんの根治的な治療方法の一つとして確立しています。手術療法や化学療法との併用や組み合わせで治療を行う集学的治療としても、肺がん、食道がん、頭頸がんなど多くの腫瘍で標準治療として広く実施されています。最近の放射線治療技術的な進歩で、より安全にかつ正確に放射線を照射する技術や機器が開発され、放射線治療の役割がますます大きくなってきています。粒子線治療や放射線治療の新しい技術も保険収載されて、治療適応も拡がってきています。加えて、超高齢化社会の到来も目の前に迫っており、手術療法や化学療法よりも侵襲が少なく高齢者でも安全に施行できる放射線治療の重要性はさらに多くなっていきます。そのような時代に対応をすべく、JROSGでは放射線治療の有効性をしっかり検証する専門的でアカデミックな活動をさらに推進すると共に、その成果や活動を分かりやすく伝えることで、一般の方々が必要な時に的確に必要な情報にアクセスできる拠点になるべく、その体制を整備していく所存です。また、放射線治療を含むがん治療においてもグローバル化が進んでいます。そのため、国内の他の臨床試験グループや組織との連携はもちろん、海外のグループとの連携や協力も必要不可欠な時代になっています。このような広い視点に立った連携を実現することで、新治療技術の有効性や安全性の早期検証や新規薬剤と放射線治療との併用効果に関する臨床試験など、さらに質の高い臨床試験や研究の実施とスピーディーな推進も可能になり、またこれらの研究結果の波及効果も大きくなります。そのためには、現在の組織体制をさらに充実させ、強固にしていく必要があります。そのため、JROSGの役員および会員一同、さらなる充実、発展に向けて邁進する所存ですので、今後ともさらなるご協力をいただけるよう、よろしくお願いいたします。
2020年7月
理事長 秋元 哲夫